新しい商品やサービスを開発した時に、それらが消費者のニーズを獲得し、シェアを獲得するための戦略を考えるのが、企業マーケティング担当者の役割です。しかし、日本はマーケティングの文化があまり浸透しておらず、「マーケティングでは何をすれば良いのか」と聞かれると、なかなか難しいと感じる人が多いのではないでしょうか。
今回は、USJをV字回復させた立役者として知られる、森岡毅氏の著書「確率思考の戦略論」を参考にしながら、企業マーケティング担当者が考えるべき、3つの焦点について紹介していきます。
1つ目 プレファレンス
プレファレンスとは何かというと、簡単にいえば消費者の好感度です。
消費者は商品を選んで購入するとき、必ず好感度に従って商品を選択します。ハンバーガーを注文する時、マクドナルドを選ぶかモスバーガーを選ぶか。仮にモスバーガーで注文する時、どのメニューを選ぶか。そもそも、晩御飯にハンバーガーを食べるか、それともピザを食べるか等、全ては好感度で選択されるのは、理解に難しくないと思います。
重要なのは、この好感度=プレファレンスをどうやって上げるか。シンプルな問いですが、理解するのはなかなか難しい問いでもあります。書籍「確率思考の戦略論」の中で紹介されている、USJを例としてみましょう。2010年、森岡氏が着任するまで、USJはハリウッド映画のテーマパークでした。ハリウッド映画に限定することで、消費者のプレファレンスを上げる事ができると考えられていた為です。しかし、森岡氏はハリウッド映画のテーマパークではなく、世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップとして、ハリウッド映画に限らずアニメやゲームなども取り入れていきました。消費者は、”素晴らしく感動する体験”が重要なのであり、映画に限定する必要が全くないと考えたからです。
他にも書籍の中には、各社がお得用として大きいサイズで販売していたのが、実は消費者のプレファレンスを損なっており、新たに小さいサイズの商品を販売したら大ヒットした話なども紹介されています。メーカーは作り手としての感情や思い込みが先行してしまいがちですが、最も重要なのは消費者のプレファレンスを理解する事にあるのです。
2つ目 認知率
先ほど紹介した1つ目の焦点”プレファレンス”は、簡単に言えばその商品が獲得できるマーケットシェアの可能性を示すものになります。そして、残り二つの焦点である、認知率と配荷率は、この可能性にどこまで近づけるかのポイントになります。
認知率という言葉の意味自体は、説明するまでもないでしょう。どれだけの人が、その商品を知っているか、という割合です。そして、認知率が100%に近づくほど、プレファレンスによって得られた、マーケットシェアのマックス(可能性)に近づくという事になります。
認知率は正直にいうと、資金さえあればTVCMなどで獲得できます。しかし、認知率が100%に近づくほど資金に対する費用対効果は下がり、さらに資金も無限ではありません。故に、新商品が成功を収める為には、どの程度の認知率が必要なのか、そして限られた資金の中でどのように効率よく認知率を上げるかが重要です。
資金繰りに苦労していたUSJが、新しい目玉であるハリーポッターを成功させる為には、200万人の動員が必要であり、それを可能にする為には90%以上の認知率が必要だったとか。しかし、TVCMによって90%を獲得するほどの資金はありません。故に、森岡氏はUSJに関する書籍を出版してベストセラーにする事で、今注目するべきテーマパークとしてメディアの注目を集めることを計画しました。
3つ目 配荷率
認知率と同じく、プレファレンスによって得られる可能性のあるマーケットシェアのマックスに近づくためのもう一つの要素が、配荷率になります。
配荷率とは何か、簡単にいうと消費者の手の届くところに、どれだけの割合で商品が並べられているかという話です。スーパーを例にすると分かりやすく、自社の商品が全国の70%の店舗に並べられていれば、それは配荷率が70%であり、さらにマーケットシェアの60%を占めるAというスーパーにのみ自社の商品が並べられていれば、60%*70%で42%という配荷率になります。
配荷率は、販売する場所によって難易度が変わり、小売店の場合は店舗のオーナーの利益や事情に合わせた商品の陳列を。ネットショップの場合は、配荷率は上げやすい代わりにライバルが増えるため、より消費者のプレファレンスに訴える売り方を意識する必要があります。
森岡氏がP&Gのアメリカ本社でブランドマネージャーになった時、P&Gは既に大きなシェアを獲得していました。スーパーにはホワイトウォールと呼ばれる、P&Gの白いボトルがずらっと並ぶ棚があったそうです。そしてその状況で、これ以上どうしたら売り上げが上がるのか、頭打ち状態に当時はあったとか。既に店頭では大きく棚を確保しているため、それをより広げることにもあまり意味があるとは思えません。そこで森岡氏は、ただ棚を確保するだけでなく、その店舗の顧客に合わせた商品を重点的に並べるように、商品の陳列を変えました。そうすることで、ロスを少なく商品が売れるため、P&Gとしても店舗のオーナーとしても、売り上げが上がったとか。
まとめ
今回ご紹介した3つの焦点、プレファレンス(好感度)・認知率・配荷率は、言ってしまえばそんな事は当たり前のように思えます。しかし、これらを一朝一夕で理解する事は難しいです。それこそ、プレファレンスを正しく理解できていないから、間違ったところに資金を投入する(もしくは、余計に資金を投入しすぎる)ため、事業が失敗することも多いです。
今回ご紹介した内容では、概念的な部分が多く、「では実際にどうすれば良いのか」という点まではご紹介できていません。なので、その辺りに興味を持った方には、ぜひ森岡毅氏の「確率思考の戦略論」を読んでみてください。マーケティング担当者にとって、勉強になる話が多いと思います。